「最近、気分が落ち込んでしまう」 「周りの人と上手くコミュニケーションが取れない」 こんな悩みはありませんか?もしかしたら、それは「うつ病」や「発達障害」が関係しているのかもしれません。 多くの人が抱える「うつ病」と「発達障害」。この2つには、密接な関係があると言われています。この記事では、両者の関係性や、より良い生活を送るためのヒントについてご紹介します。
目次
1.うつ病と発達障害の関連性:知っておくべき基礎知識
まず、うつ病と発達障害について、それぞれの基本的な特徴を押さえておきましょう。
うつ病とは?
うつ病は、誰もが経験する「落ち込み」とは異なり、持続的な気分の落ち込みや興味・喜びの喪失を主な症状とする精神疾患です。以下のような症状が2週間以上続く場合、うつ病の可能性があります:
- 気分が落ち込む
- 何をしても楽しくない
- 疲れやすい、体がだるい
- 眠れない、または逆に眠りすぎる
- 食欲がない、または逆に過食になる
- 集中力が低下する
- 自分を価値のない人間だと感じる
発達障害とは?
発達障害は、脳の発達に関わる障害の総称です。主な種類には以下のようなものがあります:
- 自閉症スペクトラム障害(ASD):
- 社会的コミュニケーションの困難
- 興味や行動の偏り、こだわり
- 注意欠如・多動性障害(ADHD):
- 注意力の持続が困難
- 衝動性や多動性がある
- 学習障害(LD):
- 読み書きや計算などの特定の学習に困難がある
うつ病と発達障害の関連性
実は、うつ病と発達障害には深い関連があることがわかっています。発達障害のある方が、うつ病を併発するケースが少なくないのです。
例えば、ASDの方の約49%、ADHDの方の約41%が「うつ病の診断を受けたことがある」と回答したという調査結果があります。(*)
では、なぜ発達障害の方はうつ病になりやすいのでしょうか?次のセクションで詳しく見ていきましょう。
(*)引用文献:令和元年度厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 発達障害の原因,疫学に関する情報のデータベース構築のための研究
2.発達障害がうつ病を引き起こすメカニズム
発達障害の方がうつ病を発症しやすい理由には、いくつかの要因が考えられます。ここでは、主な3つのポイントを見ていきましょう。
1. 社会適応の困難さによるストレス
発達障害の特性により、社会生活でさまざまな困難に直面することがあります。
- コミュニケーションの取り方がわからず、人間関係に悩む
- 仕事や学業でうまくいかず、自信を失う
- 感覚過敏により、日常生活でストレスを感じやすい
2. 自己肯定感の低下
発達障害の特性を持つ方は、幼少期から「周りと違う」という経験を重ねることが多くあります。そのため、
- 自分を否定的に捉えがちになる
- 「自分はダメな人間だ」という思い込みが強くなる
- 失敗体験が積み重なり、自信を失いやすい
3. 二次障害としてのうつ病
発達障害の特性に加え、周囲の理解不足や不適切な対応により、二次的に精神的な問題が生じることがあります。これを「二次障害」と呼びます。
- 学校や職場でのいじめや差別
- 過度な叱責や否定的な評価
- 適切な支援を受けられないことによる挫折感
発達障害とうつ病の悪循環
発達障害の特性とうつ病の症状が重なると、さらに困難な状況に陥ることがあります。
- 集中力の低下:ADHDの注意力の問題とうつ病による集中力低下が重なる
- 社会的引きこもり:ASDのコミュニケーションの困難さと、うつ病による社会的回避が重なる
- 自己否定的な思考:発達障害による自己肯定感の低さとうつ病のネガティブ思考が重なる
しかし、うつ病と発達障害の両方を抱えている人でも、適切な治療や支援を受けることで、症状をコントロールし、より充実した生活を送ることができます。
3. 見えない壁と闘う:発達障害と心の病
ここでは、実際にうつ病と発達障害を経験した方の体験談と、それに対する医師の回答を紹介します。
空気読めず、パニックに
新卒で役所の職員になったのですが、初めてのことだらけの激務な部署で、うつ状態に陥ってしまいました。すぐにパニックになり、物事に対応できず、職場の方に呆れられることもしばしば。飲み会を断ったり、上司との会話で緊張して変な回答をしてしまったりと、空気を読めない言動も多いのです。
調べていくうちに、発達障害がベースでうつに発展する可能性があると知りました。私自身、すぐにパニックになり、物事に対応できず、空気を読めない発言をしてしまうことが多いです。飲み会を断ったり、上司との会話で緊張して変な回答をしてしまうこともあります。これらの行動は自閉症の特徴なのでしょうか?
(男性|20代)
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発達障害の特性によるものでしょうか
この相談に対する医師の回答
ご自分で記載されていますように、発達障害がベースとなってうつ病あるいはうつ状態を発症している状態が疑われます。エピソードを拝見したところでは、自閉症の可能性が極めて高いと思われます。
処置や対処法については、自分自身の頑張りや我慢によって改善する可能性は低く、むしろ逆に精神ストレスにより悪化する可能性が高いと思われますので、改善のためには病院受診が唯一の方法だと思われます。
今後もこの状況が持続するでしょうし、更に悪化してしまい、今以上に日常生活や社会生活に更なる困難を伴う可能性も考えられますので、今のうちから脱却を図るべきだと思います。
お近くの精神科あるいは心療内科を受診されることを強くお勧めします。
(回答医師:内科)
仕事でミス連発…発達障害?うつ?
2児の母である私は、4月の転勤後、新しい職場で苦戦しています。仕事のミスが多く、周囲から冷ややかな目で見られ、孤立感を感じています。子どもの為に残業を控えていますが、係長の立場にも関わらず、係員並みの仕事しかできていません。
毎日仕事に行くのが辛く、イライラして子どもに怒鳴ってしまうことも。家事もおろそかになり、全てが空回りしている気がします。以前の自分は周りに頼っていただけだったのではないかと自信を失っています。
この状況が発達障害やうつによるものなのではないかと不安です。仕事を辞めたい気持ちもありますが、経済的な不安も大きく、どうすればいいのか途方に暮れています。
(女性|30代)
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仕事でミスばかり、うつ病でしょうか?
この相談に対する医師の回答
ADHDは、成人してから発症することはありません。関連の障害が学童期から認められます。
仕事を中心に、ストレスが鬱積されておられるのでしょう。
ストレス性の抑うつ反応をきたしておられる可能性が、否定できないと思われます。
うつ状態では、沈静と抑制のセロトニン系と賦活と興奮のノルアドレナリン系神経系の活動が停滞しているとされます。
この両者が微妙に入り混じってうつ状態をもたらします。
現在の状態は前者のタイプで、沈静と抑制のセロトニン系神経系が、もっぱら停滞していると考えられます。
そのため、些細なことに対する不安が抑えきれずに増大してしまい、集中力の維持も困難で思考力が低下、仕事にも困難をきたしておられるのでしょう。
第一選択薬は、セロトニン系に特異的に作用し、不安に強い効果のあるレクサプロ、セルトラリンなどSSRI系抗うつ剤とされています。
それと、その効果を増強し、深層意識にも作用する、エビリファイ、ロナセン、ルーランなど非定型抗精神病薬をごく少量併用されると根治の期待もできます。(*)
心療内科、精神科にご相談なさるとよいと思います。
(*)医療機関での診察が必要であることを前提に、一般的な見解として医師は述べています
(回答医師:精神科・神経科)
2つ目の相談事例のように、発達障害かと思いきやそうではないケースももちろんあります。発達障害が原因でうつ状態を引き起こすケースと、うつ状態が発達障害と間違うほどの集中力や思考力の低下を招くケースをご紹介しました。
いずれの場合も、日常生活や仕事に大きな影響を与える可能性があることがわかります。しかし、適切な診断と治療によって、状況を改善できる希望があることも示されています。
4. うつ病と発達障害の診断と治療アプローチ
うつ病と発達障害が併存している場合、その診断と治療には慎重なアプローチが必要です。ここでは、診断から治療までの流れを見ていきましょう。
診断の難しさ
うつ病と発達障害の併存は、診断が難しい場合があります。その理由として:
- 症状の重なり:
集中力の低下や社会的引きこもりなど、うつ病と発達障害で似た症状がある - コミュニケーションの困難:
発達障害の特性により、自分の気持ちや症状を適切に表現できないことがある - マスキング:
発達障害の特性を隠そうとする「マスキング」により、本来の症状が見えにくくなる
適切な診断のために
正確な診断のためには、以下のようなアプローチが重要です:
- 詳細な問診:
幼少期からの生活歴や症状の経過を丁寧に聞き取る - 心理検査:
WAIS-IVなどの知能検査やAQ(自閉症スペクトラム指数)などの発達障害スクリーニング検査を行う - 身体的検査:
うつ病の原因となる身体疾患を除外するための検査を行う - 家族からの情報収集:
本人が気づいていない症状や行動特性について、家族から情報を得る - 長期的な観察:
一度の診察では判断せず、経過を見ながら慎重に診断を進める
治療アプローチ
うつ病と発達障害が併存している場合、それぞれの特性に配慮した治療が必要です。主な治療アプローチには以下のようなものがあります:
- 薬物療法:
- うつ病に対するお薬とASDやADHDではお薬の種類が異なります。症状や副作用を慎重に観察しながら、適切な薬剤を選択してください。
- 認知行動療法(CBT):
- 私たちの考え方や行動が感情に大きな影響を与えるという考えに基づいた治療法。例えば、「自分は何もできない」「いつも失敗する」といったネガティブな考え方をより客観的な視点から見直すことで、不安や落ち込みといった感情を軽減することを目指す。具体的には、以下のようなことを行う。
- 認知の再構成: 歪んだ考え方(例えば、全か無かの思考、過度の一般化など)を、より現実的な考え方に置き換える。
- 行動療法: 不安な状況を避ける行動を徐々に減らし、新しい行動を身につける。
- リラクゼーション訓練: 深呼吸や瞑想など、リラックスできる方法を学ぶ。
- 私たちの考え方や行動が感情に大きな影響を与えるという考えに基づいた治療法。例えば、「自分は何もできない」「いつも失敗する」といったネガティブな考え方をより客観的な視点から見直すことで、不安や落ち込みといった感情を軽減することを目指す。具体的には、以下のようなことを行う。
- 環境調整:
- 仕事の内容や時間を調整し、無理のない働き方を目指す。例えば、集中力を要する作業を避けて単純作業から始める、短時間勤務にする、など。
- 集中しやすい静かな環境を確保する
- ソーシャルスキルトレーニング:
- コミュニケーションスキルの向上
- 社会的場面での対処法の習得
- 家族支援:
- 家族への心理教育
- 家族療法
より良い生活へ
治療に加え、以下のセルフケアも重要です。
- ストレス管理:
リラックスできる時間を作り、ストレスを軽減しましょう。 - 生活習慣の改善:
規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけましょう。 - 自己理解:
自分の強みや弱みを理解し、自己肯定感を高めましょう。
最後に
うつ病と発達障害の併存は、確かに大きな課題です。しかし、それは決して克服できない壁ではありません。適切な理解と支援、自己理解を深めることで、自分らしい人生を歩んでいくことができます。
一歩ずつ、ゆっくりと前に進んでいきましょう。あなたの中にある強さと可能性を信じて、諦めずに歩み続けることが大切です。そして、困ったときは遠慮なく周りの人や専門家に助けを求めてください。
今日よりも明日、その先の人生がより良いものになることを願っています。